歌集「即興と色調 II」


◎それぞれの日々に12首と1句

☆ 路の端(は)の 小(こ)まき社の 供養花
          誰(た)が死を泣きて 咲き乱るるや  S60.10.9

☆ 大田尾の 弥生没り陽の 黄金(こんじき)の 
       陽光(ひかり)に眩し 君の住む家      1985.3.22

☆ 君と離れ 思い涸れゆく
       日々なれば 断ちて帰らむ 途棄てていま   1985.3.19

☆ ほの寒き弥生三月 短か日の 夕陽のなかで見合いかな  1985.3.1

☆ わくらばの徒に恋なす汝が心 捉えてもなほ遁れて舞へり 1984.9.16

☆ 我ひとり 在れるこの地に
       埋もれて 我が身早くも 尽きんとぞせる   昭和59年4月

☆ 地の上に 生けるわが身は 粉々に
       砕けて散らむ 胸裂けぬれば         1984.2.16

☆ この孤独 この悲しみを かのひとは
       知ることはなし 愛失せければ        1984.2.16

☆ 乱れ降る宵の白雪 頬打ちて わが身独りを刻む足跡   昭和59年正月

☆ 真冬にもリンリンと鈴虫の鳴く             1983.12.8

☆ 静かなり 病室の窓辺に寄りて
       白川の水脈を 眺め居りけり         1983.11.11

☆ 小雨降る 霧深き寺 静まりて
       甍を蔽ふ 松の侘びしき           1983.10.13

☆ 逆巻く血 露と消へ去り
       血の管は 固く乾きて 皹割れにけり     1983.9.8

◎昭和58年春の3首

☆ 松原の潮瀬を見遣る君の眸(め)に映りし男性(ひと)は誰ぞありなむ     

☆ 二年(ふたとせ)を逢はず過ぎにし大濠の小舟浮かべし日々は夢かも

☆ 汝が思ひ抱(いだ)きて夜半に彷徨へば天に眩しき十三夜かな

◎昭和57年9月に3首

☆ 恋しさに汝が名を呼べど来(こ)し方の遠きに過ぎてはるか及ばじ

☆ 君をこそ生涯かけてわが恋の女(ひと)と誓ひしあの夏の日よ

☆ 残り火は いまだ消えざり 初秋(はつあき)の
       光の都市(まち)に 君消えたれど

☆ そは光 日々の流れの 漣(さざなみ)に
      たまさか揺れる ゆかし情けの      昭和57年冬

☆ 有明の無言に渺と広がれる干潟に遊ぶ青き水鳥    S58.2.24

◎1982年冬の4首

☆ 年の瀬の夜更けに即席ラーメンを すすれる音の侘びしこの部屋

☆ わが才の開かれざればこの谷に朽ちて果てなむ 夢のごとくに

☆ うらぶれて山里深く篭り居る 若き日の夢胸に閉じ込み

☆ 君が身の 終に夫婦の 契りせず
       消へて去りしは はや三年(みとせ)前

 

◎1982.9.7に5首

☆ 自らの 変はれる性(さが)を 如何せん
      生(あ)れにし事の 運命哀しき

☆ 仕事場の 吾を稚(わか)きと 思ひなし
       憫笑をふと 泛(う)かべし 女(ひと)よ

☆ 愛すれど 思ひは遠く 通はざる
       夏陽(なつひ)凋(すぼ)みて 秋の筋雲

☆ 日も暮れて書店をあとに独歩せる 我は未だに書生なるかな

☆ この職を 辞して何処に 行かむらん
       一年(ひととせ)の後(のち) 何なしつらむ

◎それぞれの日々に9首

☆ 一度(ひとたび)も 外(と)に出ざりし 秋の日の
      書に埋もるる 休日(やすみ)なるかな  S57.9.13

☆ 雑踏の ネオン街路に あるときも
      心は汝に 添ひてあるらし        1982 秋

☆ 湯上がりの 鏡に我を 見凝むれば
        凄まじきかな 二十七にて      1982 秋

☆ 秋深き夜半の寝床に我忘れ 喘ぎて狂ふ十五娘よ  1982 秋

☆ 街角に 見ゆる娘は いかほども
      されど抱きては 玉肌の女(ひと)    1982 秋

☆ 志半ばに 此の身の 果つるとも
       絶へて心の 悔ゆることなし      1982.10.8

☆ 勃然と 人恋しさに 胸荒び
      愛する女(ひと)の 名を呼ぶ夜更け   1982.10.16

☆ 恋すれど 愛すれどただ 淋しさの
       わが身刺すなり 秋の夕暮れ      1982.10.16

☆ 意(こころ)いま 星天に融け うち顫(ふる)ふ
           わが身に神の 宿り給へば   1982 晩秋

 

◎昭和57年夏の頃4首

☆ 我もはや二十七になりぬ 夏猛き光にうたれ瞼閉じらん

☆ 行方知らぬ旅に発ち出で 暗きなか吾は歩みぬ 歩を踏みしめつ

☆ 久々に酒酌み交わし和めるも ロボットの如しと酔へる師は云ふ

☆ 鹿児島の朋より便りの舞ひ込める 嬉しかりけり 君の気遣ひ

 

◎昭和57年梅雨の前後に4首

☆ 自由への 冥き欲望(くらきのぞみ)に 吾を縛り
       君を縛りて 夜ごと身を食(は)む

☆ フェニックス並木の路を走りゆけば 潮の香満てる日向の海よ

☆ 春陽(はるひ)まつ 野辺に菜の花 蓮華草
            眸(ひとみ)凝らせば 舞ひたつ蝶よ

☆ いつもより5分も早く着きにけり クルマの外は強き雨風…

◎昭和57年春の12首

☆ 友もあらじ恋人もあらじ春の陽に 隠れて独りタゴールを読む

☆ ひとりなる黒髪の家(え)に棲みつきて
       はや二年(ふたとせ)を数えつるかな

☆ 日曜に終日独り籠り居て Gilbey's Ginを呑み干しにけり

☆ 問ひ返すわれは何とのその果てに 見えしは何もなかりし者とは

☆ 静寂(しじま)なる 夜の深みに 息ひそめ
            わが行く末を 案じ居るなり

☆ 一行も書けにし吾の愚かさよ 明日からはまた税金を取り

☆ 桜満つ白川の岸を歩きおれば 陽差しやはらにこころ侘しき

☆ うらら陽をゆくり歩けるわが脚に 力入らざり道迷ふれば

☆ 白川の河岸に帯なす桜花 曇りなき空 匂ふ花の香

☆ 久々にふるさとの家(え)に帰りなば 変はらざるなりわが父と母

☆ 瞼より心の蓋の重くして 睡りにおちぬ 午(ひる)の休みに

☆ 自動車(くるま)止め しばし眼(まなこ)を 休むれば
             車窓に遊ぶ 春風の声

◎それぞれの日々に8首

☆ 外(と)に出れば 月こそ出でね 白絹の
          庭面(にわも)を蔽ふ 夏の夜半かも <S54.8>

☆ 生(あ)れしより こころ病みたる 吾なれば
      いまは謐(しづ)かに 逝く秋(とき)を俟つ <S55.5>

☆ 故郷に 帰りて暫し 根に立てば
      揺るがざるなり 我が不動岩         <S55.7>

☆ 御社に 着きて真直に 見上ぐれば
      覆い被さらん ああ不動岩          <S55.7>

☆ 岩もあり 木の根もあれど さらさらと
       たださらさらと 水の流るる        <S56.8>

☆ 欲すれど 力なきなり 冬の夜に
       こころ温むる ストオヴの火よ       <S56 冬>

☆ 雑貨屋を 帰りしなにぞ 呉れし雪花菜(おから)
       おかみの言ひし おふくろの味       <S56 冬>

☆ せめて春 陽溜りのなかに 筵敷き
       天に向かひて 逝かまほしきを       <S57新春>
   ※ 辞世の歌(26歳の2月初旬に逝ける)

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